SFC琴坂氏インタビュー「何故日本にボーングローバルベンチャーが少ないのか?」

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国や産業といった領域を超えて、どんどん活躍していくスタートアップ。その背景にある大きな時代の変化を慶應義塾大学総合政策学部の琴坂将広氏に、宮地・鈴木が聞いた。(以下、敬称略)

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Part3:何故日本にボーングローバルベンチャーが少ないのか?

宮地:

SFCの学生が起業する話を聞いていると、そもそも若い人にとって日本であろうが海外であろうが関係がない、だからたまたま海外がビジネスをやる上で良いとわかればすぐ海外にいくだろうが、日本と海外のどちらも全然知らない世界の場合は、今暮らしている日本でまず一歩はじめることが多い印象がある。

琴坂:

その答えには、3つの要素がある。

1つめに日本という市場が大きくて魅力的すぎるという事がまずある。ネットリテラシーが極めて高く、単一性も非常に強く、東京一極集中もしているためここで成功すればすぐ飛べると考える。日本という市場があまりにも魅力的すぎて、たとえばフィンランドやノルウェーや韓国ではそうでもない。海外に出た方がはるかに成長の可能性があるため出たくなる。相対的な日本市場の魅力によって人が出ない。

2つめとしては”スキル”である。シリコンバレーなどで生まれ育っていると、国際経営をしていることが前提条件の会社ばかりである。日本でITに興味があり、代表的起業であるサイバーエージェント、楽天、グリーに入社しても 国際経営の経験を積めるのはごく一部だけだろう。しかしそこでシリコンバレーに興味があるとなったらTwitter、Facebook、Googleのどれに入ったとしても、世界展開をしているため、日常的に世界に触れる事ができる、日本でも確かにGoogleはあるが、一部のマネージャークラス以外は日本国内での事業展開のオペレーションの担当となるため、なかなか国際経営のスキルが身につかない。

3つめで、さらに追い討ちをかけているのが、日本の特性で、教育制度の問題でもあるが、ハイヤリング(採用)ができない。たとえばシリコンバレーであれば、スタンフォードやUCバークレイを筆頭として国際的な教育機関が至近距離に存在する。そこに世界中から人材が集まっており、彼らを橋頭堡とすれば、どの国に対しても初期参入の契機を見つけることができるだろう。

鈴木:

ITやネットビジネスのメッカはシリコンバレーだと思うのだが、その次のメッカが日本にできれば成長性があるだろうが、それはあり得るのか。

琴坂:

ここで主語を意識する必要がある。すでに述べたように、現代では国と企業と個人がデカップリングしつつある。昔は、国が主語でも、企業、個人が主語でも議論はそれでよかった。国が未来を考える事は企業および自分の未来を考える事だった。

今は違う。極論で言えば、日本がダメであると感じるのであれば、能力がある個人はシリコンバレーで挑戦すれば良いだけとなる。

鈴木:

主語はたしかに大前提である。仮にここで国の議論をするとして、日本はどうなるのか。個人は世界中どこでも活躍できると思う。企業もここではおいておくとして、あえて国に絞って考えると現状は危機的だと感じる。

琴坂:

未だに可能性が残る分野も残るが、1980年代のような圧倒的存在感をこれからも発揮するのはおそらく極めて難しい状況だろう。

鈴木:

ゲームは、ルールを決めたものが圧倒的に強い。今は、海外がきめたルールでゲームをしている。相手が決めたルール上でなんとか勝とうとすることは容易でない。

琴坂:

確かに、ゲームのルールを決めることができなくなるというのは大きな困難だろう。しかし、ルールに縛られないような競争のフィールドも存在するだろう。例えば、ルールを単一事業者が決められない場合、市場原理が強く働き、単一事業者のチカラが及びきれない領域は今も多々ある。ゲームのルールを握られてしまうのであれば、そこは仕方がないと諦め、別のフィールドに取り組むことも必要だろう。

実はビジネスの世界は広い。ITとインターネットで考えるとたしかにシリコンバレーがルールを決めているようであるが、それ以外のビジネスの企業もたくさんある。

食でいっても世界中で誰もルールを決めているわけではない。あるとしてもミシュランくらいだが、ロンドンで日本料理屋と日本の寿司屋が二つ星を二つ獲っていてミシュラン二つ星が二軒もある。日本人がイギリスに行ってイギリスで賞をとって二つ星を二つもとっている。しかも、エスニック料理のカテゴリで、だ。フランス料理が中心のミシュランガイドでそれが載っているのである。日本人がパリでミシュランのスターをとっているし、フランス料理の店でもパリは日本人のシェフ、副幹部レベルがいないレストランはない。

ルールが決められているものは確かにある。こうした食の世界の事例に示されるように、それでももちろん、勝てないというわけではない。

宮地:

いわゆる食品で日本人は得意なものにこだわる。その得意なものとは、ビジネスとしてグローバルに大きく成長するといったお金の計算ではなく、食とかモノの匠の技にこだわる。美味しいものは提供できるが、お金を儲けるという点では得意ではないと考えられる。

琴坂:

それは日本人だけの話ではない。どの国にもそういう人はいる。国民性や教育を背景にしてスイス、ドイツ、日本でそういった特性が多いのは確かにそうだ。そうした匠の領域には事業としての成長の可能性は小さいとする見方もあるが、しかしそれでもいいのではという考えもある。マックス・ウェーバーは鉄の檻といったが、別に鉄の檻の中で生き続ける必要はない。幸せを追い求める過程で、事業成長が不要となる可能性は、もちろん否定しない。

つづく

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琴坂将大氏プロフィール

慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学時、小売・ITの領域において3社を起業、4年間にわたり経営に携わる。大学卒業後、2004年からマッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に在籍。北欧、西欧、中東、アジアの9ヵ国で新規事業、経営戦略策定のプロジェクトに関わる。多様な事業領域における国際経営の知見を広め、世界60ヵ国・200都市以上を訪れた。2008年に同社退職後、英オックスフォード大学大学院経営学研究科に進学、2009年に優等修士号(経営研究)を取得。在籍中は、非常勤のコンサルティングに関わる。ヨットセーリングの大学代表に選出されるなど、研究・教育以外にも精力的に活動。2013年に博士号(経営学)を取得。立命館大学経営学部准教授を経て、慶應義塾大学総合政策学部准教授。近著に「領域を超える経営学

<鈴木の所感>インタビュー中にも述べていますが、私個人はボーングローバルベンチャーが生まれにくい理由として、相手の決めたルールでプレーしてしまうことが大きいのでは、と思っていましたが、琴坂氏はミシュランのように相手の決めたルール上でも十分勝てる分野があることを指摘しておられました。最終回は琴坂氏のルーツについて語ってもらう予定ですので、お楽しみに!

その琴坂氏と、グローバルに活躍するベンチャー企業の社長(設立して2~6年で上場)が登壇するイベントがこちらです。ご興味のある方は是非お越しください。