SFC琴坂氏インタビュー「産業によって異なるグローバル戦略:統合化と適合化」

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国や産業といった領域を超えて、どんどん活躍していくスタートアップ。その背景にある大きな時代の変化を慶應義塾大学総合政策学部の琴坂将広氏に、宮地・鈴木が聞いた。(以下、敬称略)

Part1はこちら

Part2:<産業によって異なるグローバル戦略:統合化と適合化>

鈴木:

ということは、感覚も統合化されるということか?100年前の味覚はバラバラだったが、食もグローバル化して味の好みが少しずつ近くなってきているという話がある。

しかし、お笑いの感覚は日米で異なる。日本ではボケとツッコミがあるが、アメリカではツッコミの人がいなくてひとりの面白い人がでてくる。だから統合されていく感覚と統合されていかない感覚がある。ハリウッド映画は輸出できるが、アメリカのバラエティ番組は輸出できない。

そういった意味で考えると統合されていく感覚とそうでない独自の感覚があるのではと思うが、それはどうか?

琴坂:

それは1970年代に提唱され、80年代にかけて広まったIR frameworkという考え方で説明されている。

この理論はintegration(統合)とresponsiveness(適応)という2つの軸を用いて、国際経営において生じる対立関係について説明している。

一方で、各国市場の事業を出来る限り統合したほうが、多国籍に展開する規模の経済などの利点をえることができる。他方では、今鈴木さんが言われたように、コンテンツ産業や飲食業のような文化や慣習に影響される要素が重要な事業領域では、現地環境に適合しないと売り上げが上がらない。

統合を進めれば進めるほど、各国市場における適応度合いは低下する。しかし、適応を進めれば、逆に統合が進まないという対立関係がある。従って、産業特性によって最適なバランスを見出す必要があるとIRフレームワークは説明する。 たとえば、飛行機はほとんど世界中で同じものを売っている。建設用の機械もほぼ同様である。半導体も同じ製品を販売しているし、 オレンジもバナナもサーモンも塩も小麦も同様。世界を統合した事業展開を進めることによって、グローバルに展開することを競争優位に転化させている。

逆に、例に出していただいたお笑いと同様に、例えば飲食業においても現地の慣習の理解が重要であり、必ずしも母国での学びは全て役立つとは限らない。

例えば、一風堂のラーメンは、日本ではラーメンを中心に、トッピングや添え物だけが提供され、比較的低い子客単価を比較的高い顧客回転率で補う構図だが、少なくとも海外の一部店舗では事業モデルを大幅に変えている。

なぜかというと、欧米では外食時には比較的長い時間をかけて食事を行う一方、多品目を注文し、アルコールを添えることが多い。従って、顧客回転率の低下を補うためにも、一般的な日本食を期待して来店した層の期待にも答え、惣菜のラインナップを拡充し、アルコールで顧客単価を引き上げる事業モデルの転換が必要となったのだろうと推測している。

すなわち、グローバル化が進んでいくとはいえ、もちろん統合されきれない要素も多々あり、それを勘案したうえでの事業戦略が必要となる。

<インテグレーション戦略とマルチナショナル戦略>

グローバル経営ができる時代になったからといって、”簡単”になったわけではない。今は阻害要件が取り除かれただけであって、まだまだ困難な要素は大きい。

例えばゲーム。ゲームシステムは同じであっても国ごとに効果音もビジュアルも課金の仕方も動的に調整する必要がある。現地市場の特性に合わせて事業モデルを適応させていく困難は簡単には消えないだろう。

<ボーングローバル企業>

IRフレームワークの概念は、その後1990年代にはグローバルとローカルと組み合わせたグローカルという概念や、国を超えたという意味を含めたトランスナショナルという概念に発展していく。すなわち、統合と適応を選ぶというのではなく、両者を両立させる必要があるという認識に先進事例が進んでいった。

さらに2000年代になると、国を超越するという意味を込めた、メタナショナルという考えが誕生する。国家をつなげていくという発想ではなく、国家という概念を超えて有機的に世界中のロケーションを接続していくという考えである。さらに近年ではスタートアップが創業初期から国際経営をめざして生まれることも一般的になりつつある。いまやグローバル経営は全ての企業に求められるようになってきた。つづく

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琴坂将大氏プロフィール

慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学時、小売・ITの領域において3社を起業、4年間にわたり経営に携わる。大学卒業後、2004年からマッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に在籍。北欧、西欧、中東、アジアの9ヵ国で新規事業、経営戦略策定のプロジェクトに関わる。多様な事業領域における国際経営の知見を広め、世界60ヵ国・200都市以上を訪れた。2008年に同社退職後、英オックスフォード大学大学院経営学研究科に進学、2009年に優等修士号(経営研究)を取得。在籍中は、非常勤のコンサルティングに関わる。ヨットセーリングの大学代表に選出されるなど、研究・教育以外にも精力的に活動。2013年に博士号(経営学)を取得。立命館大学経営学部准教授を経て、慶應義塾大学総合政策学部准教授。近著に「領域を超える経営学

<鈴木の所感>今まで感覚が異なると思われていた分野もネット社会の普及で統合されている気がします。子供の頃からyoutubeを見て育った子供たちの感覚は国が違っても似ているのではないでしょうか。グローバルに広がるビジネスチャンスがありそうです。次回は「何故日本にボーングローバルベンチャーが少ないのか?」です。お楽しみに。

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